大人も楽しめる、トーベ・ヤンソン作ムーミン小説の魅力

文学

大人も楽しめる、トーベ・ヤンソン作ムーミン小説の魅力

 

みなさんはムーミンの小説を読んだことがありますか?

私がムーミンの本を初めて読んだのは大人になってからだったのですが、すっかりはまってしまい…

ついに全巻そろいました(^-^)♡(ムーミン谷の彗星はたぶん実家に忘れた笑)

左の青い本は、ムーミン展の公式図録です。

この記事では、私が個人的に感じているムーミン小説の魅力をつらつら書いていきます。

ムーミンファンの方も、「ムーミン? なんか北欧のカバみたいなキャラ?」と思ってる方も、読んでいただけたら嬉しいです。

なるべくネタバレしないように書こうと思いますが、人によってネタバレの基準はそれぞれだと思うので、保証はできません…!お気をつけください。

国際アンデルセン賞受賞の実力派

ただのアニメキャラでしょ?と思われることも多いのかもしれませんが、ムーミンの小説は意外と実力派です。

国際アンデルセン賞という賞をご存知でしょうか?

国際アンデルセン賞は、児童文学界のノーベル賞とも称される、非常に栄誉ある賞です。

実はムーミン小説はこの国際アンデルセン賞を受賞しているんです!
(受賞作品は『ムーミン谷の冬』)

ちなみに日本では角野栄子さんやまどみちおさんも、この賞を受賞されています。

このように、ムーミンは文学的にも優れた作品であると、世界的に認められています。

大人が読んでも面白い

そんな実力派児童文学ムーミンは、どの要素を取ってみても、とても面白くて楽しいです。

ありありと頭に思い描ける確かな情景描写や、くすりと笑えるユーモア

(前略)みんな、へやの階段のほうを見て、ぬれてはこまるもののことを、あれこれと考えました。
「だれか、ハンモックを中へいれたかい?」
だしぬけに、ムーミンパパがききました。
ハンモックをいれることは、だれも気がつきませんでした。
「まあ、いいさ。あれは、いやな色だったからな」(p34)
出典 ヤンソン.下村隆一訳.ムーミン谷の夏まつり.講談社,2011

奇想天外でわくわくするファンタジー要素、

「飛行おにが、家じゅうルビーでいっぱいにしていることを、話していたんだよ。その宝石は、家の中じゅう、そこにもここにも山とつんであるし、かべにも、猛獣の目みたいに、はめこんであるんだ。
飛行おにの家には屋根がないから、家の上を飛ぶ雲は、ルビーの反射で、血みたいに赤くそまってしまう。あいつの目も赤くて、やみの中でも、きらきら光るんだって」(p155,156)
出典 ヤンソン.山室静訳.たのしいムーミン一家.講談社,2011

わくわくするような物語の展開、その引き出しの多さなどなど…。

ここは微妙だなという点が全然なく、少なくとも私にとってはどの作品を読んでもハズレがありませんでした。

とりわけ私が魅力的に感じたのは、人物描写です!

人物描写がすごい

いるよね、こういう人!と盛り上がれる

私はムーミン小説を読んで、人物描写が特に優れているように感じました。

登場人物はよくわからない生きものたちばかりですが、その性格・言動が、実にリアルです。

とりわけ「ちょっと嫌なやつ」を、ユーモラスに描くのが上手いな〜と思います。

ミーサが、それを見ていていいました。
「ああ、わたしも一度、木の上でねたいもんだわ」
「それなら、どうしてあんたも木の上でねないの?」
ムーミンママが、そういってきくと、ミーサはぶすっとしていうのでした。
「だれも、わたしをさそってくれなかったもの」
(中略)
そうして、すみっこへすわりこんでなきながら、こんなことを考えるのでした。
「どうして、なにもかも、こんなふうになるのかしら。いつも、わたしが、かなしいつまらないめにばかりあうのは、どうしてなんだろう」(p97,98)
出典 ヤンソン.下村隆一訳.ムーミン谷の夏まつり.講談社,2011

(お次は、学術的でむずかしい本の音読を聞いている場面で)

「その、おしまいのほうのことばが、よくききとれなかったが。なんだって?」
と、スクルッタおじさんがたずねました。(中略)おじさんは、相手のいおうとすることが見当のつくときには、耳は遠くならないのですがね。(p239,240)
出典 ヤンソン.鈴木徹郎訳.ムーミン谷の十一月.講談社,2011

抜き出して伝えるのが、なかなかむずかしいのですが。

読んでいて、「こういう人、いるよね!」と笑っちゃいそうになるくらいです。

世界観はファンタジーでも、親戚のおじさんとか、ちょっとめんどくさいあの子みたいな、実在しそうなリアリティのあるキャラクターがたくさんいる…というのが、面白く読める理由の一つかなと思います。

特に上手いと思うキャラは、ムーミンパパです。ムーミンパパは作品によってキャラにブレがあまりなく、こだわりを感じます。ひょっとすると一番作者の思い入れのあるキャラなのではないかと思うほどです。

「もちろんあいつは危険だよ。おまえまでが、こわがったじゃないか。たしかにおまえはひどくこわがってたぞーーだけど、わしがこの家にいるかぎり、こわがることはないんだよ」
と、ムーミンパパはどなりました。
「だけどパパ」
と、ムーミンママはいいました。
「(中略)どんな害もしたことはありませんわ。さあ、そろそろ寝るとしましょうよ」
「よろしい」
と、ムーミンパパは火かき棒をへやのすみにもどしながらいいました。
「よろしいとも。もしあれがちっとも危険じゃないというんなら、おまえたちは、わしをたよりにすることはないわけだ。こいつはありがたいね」
こんなすてぜりふを残して、ムーミンパパはベランダへいきましたが、通りすがりにチーズとソーセージをひっつかむと、暗やみの中へひとりで出ていきました。(p24〜25)
出典 ヤンソン.小野寺百合子訳.ムーミンパパ海へ行く.講談社,2011

空想的でロマンチスト、面白い人ではあるけれど、寂しがり屋で自己中心的な困ったお父さん…。

人間味に溢れていて、実在するかのようです。たぶん実在したんだと思います。

 

キャラクター同士の関係性ややり取りもリアル

そのリアリティのあるキャラ同士がぶつかる場面もまたリアルで、読みごたえがあります

たとえば哲学者のジャコウネズミとムーミンパパのやり取りなんかは面白いです。

ジャコウネズミがへそを曲げてムーミンパパにくどくどクレームを言ったりするのですが、ムーミンパパはしおれて下手に出ながら聞いているだけです。

そしてジャコウネズミが去っていくと、

ムーミンパパは、ほっと息をつきました。それからまた、たばこに水をやる仕事にかかりましたが、そうしていると、じきにすべてをわすれることができたのです。(p82)
出典 ヤンソン.山室静訳.たのしいムーミン一家.講談社,2011

と、ストレスを封じ込めて他のことで気を紛らわせます。

ムーミンパパは家族には結構強く当たることもあるのですが、外部の人、特に学者さんのような権威ある人(ジャコウネズミは哲学者らしいので笑)には、そういう態度が取れないんですね。

(ムーミンパパの権威に弱い性格は他の作品でも読み取れると思います。)

こうした性質はたとえばミイなんかには全然見られません。

キャラクター同士の関係性や会話のやり取りを注意深く読んでいくと、とても楽しめます

善悪をジャッジしない

また、ここがムーミン小説の人物描写の最大の特長と思えるのですが、「この人は良い人でこの人は悪い人」という風には示されていないように感じます。

作中のキャラクターたちはそれぞれ他のキャラクターを嫌ったりもしているんですが、話全体としてみると、嫌われ者が悪者というわけではないんですよね。

たとえばムーミン谷の冬には、ちょっと無神経な性格のヘムレンさんが出てくるのですが、この人はみんなに鬱陶しがられています

「誰かがあの人に出て行ってくれと言わなくちゃならない」とみんなが相談しはじめるほど。(ひどい笑)
それでも、ヘムレンさんのことを好きなキャラもちゃんといます

そしてヘムレンさんはこの作品の中で活躍シーンが結構あるんです。

しかもそれが、「ヘムレンさんが行動や性格を改め、みんなに受け入れられる人になってから、活躍する」のではなく、「そのままのヘムレンさんが持ち前の性質を活かして活躍し、周囲の人たちとの関係性も和らいでいく」というストーリーになっています。

嫌われ者が悪者なわけではなく、嫌われる性質が客観的にも悪いというわけでは全然ない。

ムーミンが国を越え、時代を越えて読みつがれているのは、こうしたフラットな描き方のおかげもあるかもしれません。

スナフキンvs.勝手に看板を立てるような人々の戦いにも、そういうフラットな感覚を私は感じています。

スナフキンは、主張の内容自体は間違ってはいないですが、やり方が結構めちゃくちゃです。

これがもし、主張の内容にも正当性があって、その表明方法も、論理的に説明して相手を納得させるというやり方だったらどうでしょう。スナフキンが「正しく見えすぎる」のではないでしょうか。

ただでさえスナフキンは主人公のムーミントロールの友達ですし、自由を愛するかっこいいキャラなので、読者はスナフキンに肩入れしやすいと思います。

ですので、スナフキンがめちゃくちゃに怒り散らす場面を描くことで、「まあ…そんなに怒らなくても…」と読者をちょっと引かせる狙いがあるのかなと思ったりします。

そうすることで、スナフキンの「自由を熱烈に愛する」という性質は、ただの一つの性質に過ぎないことを表現しているのかと。

その性質自体に、正しいも間違っているもないんです。

私はムーミンを読んでいて、ほぼ全てのキャラがこんな風にかなりフラットに描かれているように感じ、その点がとても好きだなと思いました。

私が勝手に想像しているフィンランド像にもぴったり合っていて、ますますフィンランドへの興味や憧れがかき立てられます。

ムーミン小説の魅力・まとめ

私は文学を専門的に学んだことがあるわけでもなんでもないので、もしかしたら間違いだらけの解釈になってしまっているかもしれません。

それでも、私が個人的にムーミンに感じる魅力を自由に語ってみました。

もしもこの記事をきっかけに、ムーミンおもしろそうかもとか、ムーミンもう一回読んでみようかなど、思っていただけたら大変うれしいです!

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